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星条旗のショアライン

第15章 【長編】2019年 Xmas企画②(MCU/鷹and邪)



「こーら、くしゃくしゃにすんな」
「!」
紙面と睨めっこしていれば、後ろから腕が伸びてきて書類を奪われた。振り向かなくても声と腕の主がクリントである事くらい分かっている。しかし不可解なのはそこからだった。デスクに手を着く俺を囲うように上半身を屈めて密着させると、空いている方の手で俺の腰を抱き寄せたのだ。あまりこういったスキンシップをするイメージがなかったせいで心臓が嫌な鼓動を繰り返す。更に驚いたのは振り返った先の肉体に何も衣類を身に付けていなかったことだった。
「服は……どうした……」
「悪い、洗濯し忘れて変えがまだ無いんだ。一時間はこのままだけど男同士だし、なにも問題ないだろ?」
「倫理が乱れる」
「俺達しかいないのに? 良いだろ、俺とお前の仲だ」
――百歩譲って全裸で過ごすのは構わないとしよう。部屋のロックを厳重にして認証無しには扉が開かないようにすれば被害は防げる。しかし産まれたままの姿である自覚を持ちながら俺を抱き締めて離さないのは駄目だろう。
(酒を飲むタイミングは無かった筈だよな……)
愛妻によるビーフシチューを酒で濁しはしないだろうし、食事中の会話には知性があったし、そもそも飲酒を目撃していたらシャワールームになど押し込まない。普段の彼の印象からあまりにも行動が乖離していて歯痒い思いに苛まれる。どことなく影のある顔を近付けて俺の首筋を食み始めた彼を受け入れきれないままだ。ついさっき電話口に向かって『愛してるよ』と言っていた癖にどうした。
クリントから香る温かくて甘い匂いが困惑する俺を包み込む。濡れた舌と唇が鳴らすリップノイズが、成されている事の重大さを突き付けて来る度に身体が強張っていき、それを敏感に察知した彼は肌の上を滑らせる唇を耳裏へと押し付けて熱い吐息をついた。
「……なあ、お前も期待してたんだろ?」
「なにを言って……――」
――その時だ。ヒュンと風を切る音が耳元を掠めた。恐る恐る音の発生源へ目を向けるとクリントが濡れた身体を怒りで真っ赤に染め上げながら物凄い形相で愛用の弓を構えていた。次に音が収束された場所を振り返ると、簡易的なベッドへ備え付けられたクッションのど真ん中に深々と矢が突き刺さっている。

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