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星条旗のショアライン

第15章 【長編】2019年 Xmas企画②(MCU/鷹and邪)



「……ローラ。嗚呼そんな、信じられない」
「休憩にしよう。温め直すからキッチン借りるぞ」
「……レイン、悪い、少し席を外す」
「ああ、勿論だ。待ってるよ」
俺が頷くのと同時にクリントは机上からスマホを攫った。直ぐに身体を翻して足取りも軽く奥の部屋へと飛び込む様子は愛らしく、誰の目から見ても上機嫌である事が分かる程だ。ドアの隙間から僅かに覗く横顔を眺めているだけの俺の方まで心がふんわりと緩む。何処へ連絡を入れて誰に優しく微笑んでいるのかなど、考えるだけ野暮というものだろう。

(3)

クリントがシャワーを浴びている間にデスク周りを片付ける事にした。彼の数少ない私物と備品のパソコン以外はサイズがまちまちな紙類の束がうずたかく積まれている状態で、ハードワークを物語るには充分な大惨事だった。日付を見て時期ごとにファイリングしながら一番上の書類にざっと目を通してみた。必要に迫られた急な案件は何一つなく、いっそクリントでなくても構わないようなものまで混ざっている事に気付く。
(そこまでして彼を縛り付けたいのか……)
ふつふつと湧き上がる憤りに任せて真っ白な山を薙ぎ払ってしまいたかったが、そこにきて思い出してしまった。クリントが家族の存在を公にしていなかった事に。フューリーの取り計らいで存在を隠されていた事に。知るのはナターシャを始めとしたアベンジャーズの皆のみ。そうなればS.H.I.E.L.D.が年末も近付こうかという時期に遠慮なしで些末且つ膨大な仕事をクリントへ与えてしまったのにも辛うじて納得がいく。帰る家と愛する人が存在している事実を知らないから隠居を許さずに缶詰にして手放さないのだ。
(クリントもわかってて……)
S.H.I.E.L.D.の為に今までいくらでも自分を犠牲にしてきただろう。でも円満に引退した彼はもう縛られる必要などない。判子さえ押せば済む書類など他人に回してしまえば良いのに、こうして引き受けてしまう。おおかた問い詰めたところで『別の奴にも家族がいるからな、早く家に帰してやりたいだろ』なんて笑うに決まってる。自己犠牲も結構だが、自分自身にもまた己を心配して愛し慕ってくれる者がいる事を骨身に応えさせるべきだ。

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