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星条旗のショアライン

第15章 【長編】2019年 Xmas企画②(MCU/鷹and邪)



「それはトニーに頼んで作って貰ったんだ。疲労回復に効果があるらしい。彼自身がトレーニングの後に飲んでいたから実証済みだ」
「効果を疑ってるわけじゃないが、単純に不味そう」
「文句を言わない!」
「はいはい」
ぴしゃりと叱るとクリントは子供のように下唇を突き出して肩を竦ませた。案外おどける体力はあるようだが、ふとした瞬間に瞼がとろりと下がって意識を失いそうになっている姿を見ると居た堪れない。S.H.I.E.L.D.は俺に年次有給休暇を取得させる前にクリントの過密労働について考えるべきだ。
「っと……最後はこれだ」
「なんだ、まだあるのか?」
バスケットの一番下に置いていた蓋付きの耐熱皿を持ち上げて机上へゆっくり置く。それまでスムージーのボトルを振って液体の粘度を確かめていたクリントは食器を目にした途端、瞳を零さんばかりに見開いて驚いてくれた。そうだろう。そうでなくては困る。これに見覚えがある筈だ。本来であれば君が心の底から帰りたいと願って止まない自宅の食器棚に収まっている皿なのだから。
「これって……」
「ここへ来るまでに少し寄り道をした。君を労う人からの大切な預かり物だ。温め直す設備があるかと心配していたから大丈夫だと伝えたら、胃に優しくて温まるものをと言ってこれを作ってくれた」
皿と俺の顔を見比べて唇をぱくぱくと忙しなく動かしているクリントへウインクをひとつ投げながら蓋を開けると、食欲を唆る香りと仄かな湯気を上げるビーフシチューが姿を見せた。野菜は角なく煮溶けており、肉も繊維がほろほろにほどけて旨みがルウに溶け込んでいるのが良く分かる。その中に在って形を保っているハート型や星型に繰り抜かれた人参は、彼の子供たちが仕事を頑張るダディの為にした事だ。
五秒、十秒、二十秒と、たっぷり時間を使って料理を見つめていたクリントは、やがて弾かれたように身を起こして片手で口元を覆った。その目にはうっすらと涙の膜が張り、今にも雫が頬を焼きそうになっている。何処と無く血色も良くなっていて皮膚の薄い部分がほんのりと赤く染まっていた。

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