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星条旗のショアライン

第14章 【長編】2019年 Xmas企画①(MCU/鉄and盾)



くだらない事を思い出して笑みを噛むさまなど出来れば目撃されたくなかったが、為されてしまった後では仕方がない。ましてや俺からの隠し事を極度に嫌う性向を持つスティーブ相手となれば取り繕おうとした方が事態が拗れるというものだ。
彼の悪癖についてトニーに相談を持ち掛けた事もあったが「構われている内が華だと思うんだな」と挑発的に嗤うばかりでまともに取り合ってくれなかったから、今のところはこれといった解決策が見付かっていない難題といえるだろう。
「何か良いことでもあったのか?」
「そうだな、その通りだ」
とはいえ、いとわしく全てを見透かした断定表現ではなく、こうして邪気のない笑みを浮かべながら言葉尻を上げて質問してくる時はあくまで純粋な疑問に他ならない。少なくとも己の与り知らぬところで『可愛らしい』と思われている事には気付いていないし、ましてや怒ってもいないようだ。助かったと胸を撫で下ろしつつ然り気なく話題をすり替える。
「クリスマスについて考えていたんだ。トニーのように盛大なものは無理だが、時間のある者を集めて会食でもどうかと考えていてね。どうしても予算の都合上、半分の料理は手製になってしまうが」
「いいな。君の手料理は素晴らしいから」
「そう言って貰えると嬉しいよ。幸い料理のレシピは頭に残っている。皆に七十年前の味を賞味頂ける貴重な一日になると思わないか?」
悪戯っぽく笑って目を細めると、スティーブは一緒になって眦へ烏の足跡を刻んでくれた。あまり彼に向かって冗談めかした言い回しをした事はなかったが、思うより簡単に受け入れてくれて一安心だ。軽口ばかり叩くトニーとしょっちゅう食い違いを起こして苛立たしげにしている事が多いから、真っ直ぐな物言い以外は苦手なのかと思っていた。
俺がスティーブに関して無知であったのは、存外スティーブ自身も口が悪く遠慮なしな言葉を使うという点であったが、彼は俺の前だと特に気を使って……寧ろ大切に思ってくれているからこそ、優しい言葉を選んでいた事に随分と後々になって気付かされるのである。

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