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星条旗のショアライン

第14章 【長編】2019年 Xmas企画①(MCU/鉄and盾)



(3)

翌日。アポイントメント無しにニューアベンジャーズファクトリーを尋ねると、プライベートでトレーニングに励んでいたらしいトニーが身軽なウェアで出迎えてくれた。
まだ新生基地の中はがらんどうとしていて調度品や家具は最低限のものしか置かれていなかったが、トニーの仕事場であろう一角だけは既に整えられている。新たな人工知能も導入済みらしく、スティーブが吹き抜けの中庭を見上げていると何処からとも無く単調な女性の声で歓迎の台詞を話してくれた。J.A.R.V.I.S.が少し恋しくなったが、内緒だ。
冬の只中とはいえ建物内部は世界最高水準の頭脳を持つ男が設計した人工知能搭載型の空調設備が稼働している。寒空の下を移動してきた俺達が寒さに震えることなく、汗に濡れたトニーが火照った身体を持て余さない絶妙な室温が保たれていた。このまま腰を落ちつけてしまうと気が緩んで微睡みそうになる程だ。
スティーブも俺の背をとんとんと軽く叩いて本題を促してくる事だし、早速だが交渉から始めさせて貰おう。トニーの名を呼んで注意を引くとキッチンに入っていた彼は簡易的な冷蔵庫から得体の知れないドリンクを取り出したところだった。
「アベンジャーズタワーはどうするつもりだ?」
「そのうち売却しようかと思っていてね。一等地にビルを構えたい上昇志向のある人間に譲るつもりさ」
「手放すのか」
「惜しんでいるようだな。それなら君の名義で小切手を切ってくれ」
「それは勘弁して欲しい。一晩、借りたいだけなんだ」
「何に使う」
「実は……」
緑色のどろりとした液体はスムージーというらしいが、それを喉の奥に流し込みながら瞳をまたたかせるトニーへ会食の説明をする。スケジュールが空いている人間だけを無理のない範囲で集める事、料理の半分は俺の手製な事、会場としてアベンジャーズタワーの一室を借用したい事を説いた。
するとトニーはボトルから口を離さずに嚥下を続けながら何度か細かく頷いて横顔を見せる。確認も兼ねてやんわりと「借りて構わないのか?」と問うと、警戒する犬のように唸って人差し指を突き立てられた。どうやら「急かすな」という意味らしい。飲み込むまで待てと。分かった分かった。

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