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星条旗のショアライン

第14章 【長編】2019年 Xmas企画①(MCU/鉄and盾)



(多少なり羨ましいと感じているのかもしれないな。この歳にもなって恥ずかしい話だが)
スティーブへの想いを自覚するまでガールフレンドの一人も欲しいと願っていた時期もあったが、大学へ入学してまもなく経っても華奢な見た目であった事が災いして女性から恋愛感情を向けられた事は次いぞ無かった。懇意にしたいと願った子に限って俺を『可愛らしい』と形容し、弟のように扱われて終わる事が多く、その度に忸怩たる思いで項垂れた。
(そういえば……)
当時、同じくらい身体の線が細かったスティーブも女性の扱いは難しいと手紙に書いていなかったか。もしかしたら俺と同じ境遇でいたのかもしれないと思うと胸が擽ったくなって自然と頬が上がる。幼馴染のバーンズが身体付きのしっかりした男性であったらしいので余計にスティーブの小柄な体格が浮き彫りになっていたに違いない。つい想像して愉快に弾んだ吐息を零す。
「随分と楽しそうだな、レイン」
「!」
耳馴染んだ声がした方を振り返るとスティーブが部屋のドアノブを押し込んで玄関の扉を閉める姿が目に入る。ちょうど帰宅したところのようだ。横顔に「おかえり」と声を掛けると、彼は少し大袈裟に上半身を揺らしながら振り返り、たちまち花が咲いたように表情を綻ばせて「ただいま」と返してくれた。
そのまま流れるような動作で革ジャケットを脱ぎ、ウッドフックのウォールハンガーへ目視なく掛ける手付きは慣れたものだ。この部屋での生活の長さを物語っている。しかし、普段であれば部屋の鍵を上着のポケットから取り出してトレイに置くというのに今日は忘れてしまっている。後で「鍵が見当たらない」という事にならないように俺が覚えておかなくては。
(気になったら構わずにはいられないところは相変わらずだな)
ルーティンを差し置いてまで浮き足立っている理由は明白だ。快活な足取りで近付き、嫌な予感をほとばしらせている俺の真横へと逞しい下半身を勢い良く預けた。その瞬間に冬の夜風と彼の体臭とオードトワレの甘い香りがふわりと鼻腔を擽って、距離の近さを再認識する。

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