第1章 日常からの、非日常
~コナンside~
『わ、待って!ちがうちがう!』
慌てて両手を体の前に出し、首を振る女。
ポアロで名前を呼ばれたときから、
いや、ポアロに入ってきた瞬間から不思議な雰囲気を纏っていた彼女を、まじまじと見つめる。
何故俺が新一だと知っている?
頭に浮かぶのは黒ずくめの男たち。
『まって、ちょっと間違えた!』
ひたすら焦る目の前の女からは、特に悪意は感じられない。
「…お姉さん、新一兄ちゃんのこと知ってるんだね!」
俺はとりあえずしらを切り、あどけない笑顔を浮かべてみた。
『あ、え。う、うん…っいや、……そ、うだね…』
しどろもどろになりながら最終的に話を合わせてくる彼女に、確信する。
間違いない。バレている。
何故?
「…お姉さん、何者?」
『だ、だからこれは夢だから…!』
半泣きになる彼女がアイツらの仲間だとは考えにくいが。
だけど、違うという確証はない。
どうするべきか。
蘭や小五郎のおっちゃん、灰原の顔が脳裏に浮かぶ。
やっぱりこのまま帰すわけにはいかない。
「ねぇ、おね…っ」
「あれ〜?可愛いね、お姉さん!」
『え』
とりあえず名前を含めたありったけの情報を聞き出そうとした瞬間、間の抜けたような男の声が響き渡った。
「今日の合コン無しになっちゃってさ!お姉さん、付き合ってよ!おごるし!」
困惑する彼女の腕を掴み、ニヤニヤする男は既に少し酔っているようにも見える。
『い、いきません…っ!』
コ「お姉ちゃん!はやく帰ろうよ〜!」
何でこんなときに。
現れた邪魔なナンパ男にため息をつき、おろおろする彼女にとりあえず助け舟を出す。
「ああ?んだこのガキ?」
ただし、相手は子どもに優しくないタイプのようだ。
コ「お姉ちゃん〜!」
「うっせぇよ!!」
———ドカッ!!
『っ、ぁ、!!』
とりあえず諦めてもらおうと少し甘えた声を出したのが気に障ったのか、男が蹴りをお見舞いしてくれた。
もちろん避けるつもりだった。
避けるつもりだったが、それよりも早く彼女が動いたのだ。
「お姉さん!!?」
男が蹴り上げたのは、俺を守ろうと覆いかぶさった彼女の背中だった。