第7章 ジン
『沖矢さん…っ』
急に現れた救世主に、私はすぐに助手席に乗り込む。
シートベルトをしたのを確認して車を走らせる沖矢さんに、何故ここにいるのか問おうと顔を向けると、目が合った。
沖「何をしているんですか。」
怒っているようなその言い方に、ドキリと体を震わせて。
(見られてた…?)
よく考えたらタイミングが良すぎる。
もしかしたら、沖矢さんはジンを見張っていたのかもしれない。
沖「…とにかく、話は後で伺います。行き先はどちらですか。」
何も言わない私に、ため息をつかれる。
『ポアロ、に……』
ピリピリとした空気に押しつぶされそうで。
私だって、会いたくて会ったんじゃない。
後で伺われても、話すようなことは何もない。
『い、いいですっ、歩いていけますから…っ』
救世主だと思ったけど、ものすごく居心地が悪くて。
降ろしてください、と言うと細い路地に入り車を停められる。
ほっとしてドアを開けようとしたら、助手席のシートを勢いよく倒された。
『きゃ、!!?』
沖「いい加減にしてください。」
自らのシートベルトを外し、沖矢さんが覆いかぶさってくる。
『や、なに、!』
沖「安室くんのところには行けない体にしてあげましょうか?」
両手を押さえつけられ、今にも唇が触れそうな距離で言われて。
昨日の透さんを思い出した。
『やめてください…!』
怖いとは思わなくて。
それは自分の態度に非があることを分かっているからかもしれない。
沖「…もう少し危機感を持ってください。」
沖矢さんのスマホが鳴って
そのまま触れるかと思った唇は触れずに、あっさり離れていった。
沖「……すぐ向かう、少し待っていてくれ。」
短く話を終えて電話を切った沖矢さんが、シートベルトを締め直す。
ピリピリした空気は多少和らいで、私も倒されたシートを元に戻した。
『…ごめんなさい』
いつだって正しいのは沖矢さんなのに。
なんだか情けなくて俯いてぽつりと謝ると、何も言わずに頭を撫でられた。