第5章 沖矢さん
『どうして…っ』
驚く私に、沖矢さんはただ口元に笑みを浮かべるだけで。
沖「…彼が何者か、ご存知ですか?」
彼が、何者か?
瞬間、頭に浮かんだのは昨日の優しい安室さん。
私が落ち着くように
何度も「大丈夫ですよ」と言いながらとんとん、と背中を叩いてくれた。
そして、降谷零。
風見さんと話している彼は、間違いなく降谷さんだった。
それから……バーボン。
彼の使い分ける顔の中で、著しく危険度の高い存在。
バーボンは私が関わって良い存在では無い。
そんなことは分かり切っていて。
『…そう…ですよね』
彼は私と住む部屋に、バーボンとして帰ってくることがあるのだろうか。
私がそこにいることで、彼を。
コナンくんを。
そして沖矢さんを。
私以外の人たちをも、危険に巻き込むことになるのだろうか。
〈貴方は危機感が足りないようだ。〉
いつだったか、沖矢さんから言われた言葉を思い出す。
沖「安室くんに無理をさせることになりますよ。」
その言葉は私の心に重くのしかかった。
沖矢さんは、いつだって私に足りないことを教えてくれる。
それは私を責めたり、傷付けるためのものではなく、ただみんなを守るための言葉。
だから。
私はたとえひと時であっても、
安室さんと同じ部屋で生活するべきではないのだと理解した。
少しガッカリしたような気持ちになるけど、気のせいだと頭を振って。
『安室さんに無理をさせたくはないです。
それに…コナンくんも沖矢さんも、みんなを危険に晒すようなことはしたくありません。』
沖「…貴方のためでもあるんですよ。
貴方はもう少し自分のことも考えた方がいい。」
ため息混じりに笑う沖矢さん。
先程までの少し緊張した空気は無くなって、私はコーヒーカップに手を伸ばした。