第3章 ポアロ
〜安室side〜
安「…教えてくれませんか?」
何かを言いかけて止めた咲さんに、できるだけ優しく声をかける。
危険人物ではないと思っている。
だけど、ただの一般人ではないことも確かだ。
何も答えず、困った顔で視線を彷徨わせる咲さん。
話してほしい。
不審に思っているからこその質問ではあるが、そこには別の理由も少なからず含まれていた。
純粋で、表情豊かで、正義感が強い。
昨日、強盗の刃物を握って梓さんを守ろうとした彼女を見たとき、一瞬息が止まって。
血の伝う左手を庇うよりも先に、梓さんを安全なところに連れ出す姿に心を動かされた。
ころころと変わる表情を、もっと見ていたい。
好意。
これは紛れもなくそう呼べる感情で。
まだ数回会っただけなのに。
それでも、このまま少しずつ惹かれていく気がしていた。
(だから…)
未だに言葉を発しない咲さんを、真っ直ぐに見つめる。
安「咲さん。
僕を味方にしてくれませんか?」
大きく揺れるその瞳は、何を見ているのか。
まるでお願いするかのように、もう一度彼女の名前を呼んだ。