第3章 ポアロ
——カランカラン
「いらっしゃいませ」
土曜日のお昼前、私はポアロを訪れた。
そこに安室さんの姿は無く、代わりに可愛い女の子が出迎えてくれる。
「お好きなお席にどうぞ。」
笑顔で案内され、以前と同じ隅の席に座った。
お昼前だからか店内にはほとんどお客さんはいないようだ。
安室さんがいないのは少し残念だけど、
たしかちょっと不審がられていたし。
まぁいいか、とメニューを広げる。
(ハムサンド……でもこれ、安室さんが作るのが美味しいのかな…?となると、居るときがいい…??)
自炊できないせいでお腹はぺこぺこ。
コンビニのお弁当はあまり好きではないし、主にスープしか飲んでいなかったこともあってメニュー選びは真剣だ。
あれでもない、
これでもない、
と散々迷っていると、店員さん——たしか名前は、梓さん?から声をかけられた。
梓「お悩みですか?お勧めはハムサンドですよ!」
でも、どれも美味しいです!
と笑顔で伝えられる。
『やっぱりそうなんですね〜…
実は今家のキッチンが使えなくなっちゃって、久しぶりのちゃんとした食事なものでつい…』
梓「え!ご飯食べれてないんですか!?」
『あっ!いや、スープとかちゃんと飲んでるんですけどっ』
梓「スープ!?それ、ちゃんと、とは言いませんよー!
…ってすみません!余計なお世話ですよね!」
『いえ!ほんとそうですよね…!』
慌てて謝罪されて、私も慌てて気にしていないことを伝える。
梓「食べられないものってありますか?」
『?私、好き嫌いはないんです。』
梓「なるほど!!わかりました!少々お待ちくださいね!」
え?
梓さんは力強く笑うと、メニューを持って行ってしまった。
(な、何か作ってくれるのかな…?)
注文してないけどどうしよう?
と困っていると、男性のお客さんが入ってきて梓さんはそちらに行ってしまった。
(15分くらい待ってみてから考えよう…)
お腹はぺこぺこなんだけど。
なんだか憎めない梓さんを見つめると、目があって満面の笑みを向けられた。