第2章 心を解き放って
「視野が広い子はなかなかいないのかな...」
「まだ出会えてないだけですよ」
「出会えてはいるよ?」
「え?まじですか?どこかにいました?!」
「今の、僕の目の前に1人」
「...、ノーカンです!!!」
悪戯っぽく言われて一瞬言葉を失う。
長船さんはたまにこういう事を恥ずかしげもなく言ってくるから本当にタチが悪い。ビールを数杯飲んだ、ほんのりと赤い顔が楽しそうに笑う。見た目は本当に色気が凄いのに内面は男性特有の少年ぽさが見え隠れする、かわいい人だと思う。
「君は?好きな人はいないのかい?」
「うーん、いないですね」
「お付き合いしたことは?」
「それくらいはありますよ、ただあまり良い思い出が無くて...今はいいかなって」
「ふぅん」
「...細かく聞かないんですね?」
「聞かないよ、言いたくない事は誰しもあるだろう?それに」
「それに?」
「聞いて欲しくなさそうな顔、してたよ」
「...うぇー...」
軽く言葉を濁すと、長船さんはそれ以上問い詰めて来ることはない。そういう空気を汲むのが本当に上手いのだ。良く人を見ては無意識に気を使っているのだろうな。本当に、本当に優しい。
男性でこんなに素敵な人がいるのだから、女性にだって居たっていいはずだ。なんていうかもう、色々と話を聞いてきたけど幸せになって欲しいと心底思えるような人だ。
ぽん
「え」
なんだ、何事だ
根掘り葉掘り聞かれたわけでは無いものの...直前の話題がちょっとだけ気まずくて、氷が溶けて薄まったハイボールを啜っていたら...頭に、手が、長船さんの手が乗っている。
さらにそれが私の頭を撫でてくる...まるで子供にそうするかのように、優しく何度も。
なんて冷静に分析している場合ではない!突然の事に驚きすぎて心拍数と体温が爆上がりだ!
「な、ちょ...なんですか!」
「うん?」
「長船さん!!」
「ふふふ、いやね?君には...幸せになってもらいたいなあって思ったんだ」