第12章 もう一度、もう二度と
「...ああ、おはよう」
「おはよう、て、大丈夫?具合悪い?」
「いや、大丈夫だよ...ありがとう」
深酒をして寝てしまった僕を咎めることも無く、お水飲む?と心配げに気遣ってくれる彼女を思わず見つめる。不器用ながらもどこまでも優しいこの子を、僕はどうしたら手放さずにいられるんだろう...
って、あれ?ちょっとまって
「...ねえ、君...」
「うん?」
「敬語...」
彼女から敬語が抜けている。あれだけお願いしても止めなかったのに。指摘された君は照れくさそうに笑った。
「...頑張らなきゃ、と思って...」
「いつまでもこんなんじゃ、光忠さんに愛想尽かされちゃうし...」
「いや、そんなことは...!」
そんなことあるはずが無いのに。できる限り君と共にありたいとそう思っているのに。それを口にする前に君は心做しか強い眼差しで言ってくれた。
「でも、私が逆の立場なら寂しいかなって」
「だから、遅くなってしまってごめんね」
僕の両手を握って、頬を染めて
でもいつもの自信無さげな顔ではなくて
強気で、でもちょっとだけ不安げな顔で
たまらなくて、思わずぎゅうぎゅうと抱きしめてしまった。本当にこの子は僕を喜ばせるのが上手だ。
「...力、つよいよ...びっくりした」
「ふふ、鍛えているからね」
「どうりで...馬鹿力...」
「何か言ったかい?」
「イイエナニモ」
ああ、この子は砕けるとこんな話し方になるのか。また知らなかった部分を知ることが出来て嬉しい。ただただ、嬉しい。
「...ありがとう、嬉しいよ」
「っ、まだ!ですぞ!」
馬鹿力、と称した僕の腕からふんっと逃れた君はおかしな言葉遣いで目の前に仁王立ちする。完全に敬語が抜けないのを頑張っているんだろうな、可愛い。
「なんだい、どうしたの?」
「いいから、こっち来て!」