第10章 君と歩む世界
お付き合いをして数ヶ月、何度か指摘というかお願いをされる度に何とか頑張りますと流してしまっていたのですが流石にもうその手は効かないようです。
...なんだろう、上手く言えないのですが猛烈に苦しくなるんです。ただ名前を呼ぶだけなのにこんなふうになるなんて私自身も想定外で。
敬語は、ずっとそうだったものを急に変えるのが難しいというどうしようもない理由です。でもある程度年齢を重ねるとそうなりませんか?私だけかな...若い頃の勢いが欲しい...(そんなに年寄りじゃないけど)。
話が前後しますが、その苦しくなるという現象に名前を付けたい...ではなくて先輩にちょっと相談してみたんです。私も出来ればそうしたい、けどなんでだろう...自分自身の中では上手く答えが出せなくて燻っていたので。そうしたら、言われてしまったんです。多分だけど、と慎重に言葉を選んでくれながらも的確な分析を。
「本気で好きだから、なのかもね?」
目が飛び出るかと思いました。
最初は上手く落とし込めないのと衝撃でうんうん唸っていたのですが...
そうか、本気で長船さんが好きだから馬鹿みたいに動揺し過ぎてるんだ。たかが名前を呼ぶ如きでこんなにも。ああ~...恥ずかしい...これは本当に恥ずかしいし彼になんて言ったらいいんだ...。項垂れた私に先輩は更に追い打ちをかけました。
「そのままを言ってあげたらいいのよ!」
身悶えるとは、まさにこの事。
その場では無理です!!!!と言い放ってしまったけれど、今のように不安げというかちょっと寂しそうに私を見つめる長船さんを見てしまって...このまま変に意地を張ってしまうのも良くないと(いや今までもそう思ってはの繰り返しだったのだが)思いました。
...なにより、そうだよね、寂しいよね。好きな人から名前を呼んでもらえないなんて。相変わらず与えられてばかりで自分がすべきことを読み違えていた事の方がうんと恥ずかしい。
この胸を駆け巡る苦しい、ちょっと言い表すのが難しい変な感情は壁をぶち破らなければ多分解消できない。オラ!ダメな所を見つけながら良い方向に自分を変えてくんだろ?このままだとダメだぞ!と自分を叱咤すると思い切って、いやちょっと盛りましただいぶ躊躇しましたすみません。
長船さんの方へと身体を向けると、目を見つめました。驚いてそれを見開く姿を確認して。