第9章 誰かと一緒に生きていくのなら君がよかった
慌てて会話をしようとすると聞こえてくるのは先輩と同様に楽しげな声。
「何言ってるの、あのね」
『ふふふ、大丈夫ですよ!びっくりしたけど五条さん面白かったし』
「...それならいいんだけど...何を話したんだい?」
『そりゃ光忠さんの事ですよ~』
「え」
『“光坊はああ見えて生真面目だし抜けている所もあるから支えてやってくれ“って』
『ていうか“光坊“てかわいいですね、いいなあ』
「...良くないよ...良くない」
よりによって彼女にもその呼び名で話していたなんて。また溜息...呑みすぎちゃだめですよ、なんて釘を刺される。もう...あれからそんな事はないんだから大丈夫なのに。先輩も先輩だ、今のこの状況を心底楽しんでいるのかにまにまと笑いながらこちらを見ている。
『...ふふ、でも私は嬉しかったです。光忠さんの声が聞けたし』
「そ、れはまあ...僕もだけど...」
『へへへ』
...ああ
ああもう!なんだって君は電話だとこう素直なのかな!?とんでもない爆弾を落とされて思わず変な風に言葉が区切れてしまった。間違いなく顔が赤くなってる、お酒のせいじゃない。本当に、格好つかないな...。
ある程度話してから「またね」と言って通話を終えた。一息つくとさっきよりも穏やかな笑顔の先輩と目が合う。
「光坊が彼女を選んだ理由がわかった気がするな」
「そう?」
「ああ、本当のお前さんをちゃんと見ている」
先輩が“光坊は生真面目だし~“とあのくだりを話した際に彼女は笑ってそこが良いんだ、何も問題無いと答えたそうだ。...うん、だから僕はあの子と一緒に生きていきたい....そう思ったんだ。
いやだなあ、そんな話を聞かされてしまったら...
「光坊」
「うん?」
「帰るか?」
「...うん」
どうやらこの人は気づいていたみたいだ、まだなにも言っていないのに...僕がもう彼女に会いたくてたまらなくなっていた事に。
別に僕らは同棲している訳じゃない。けれどお互いの家に行き来する事はある。だから“帰る“というのはちょっと違うんだけど。だけど何故か彼女のもとに帰りたいと、そう思ってしまったからあながち間違っていないのかも知れない。