第9章 誰かと一緒に生きていくのなら君がよかった
それに、なによりあの子は僕の全てを見てくれる。その上でからかうことも無く受け入れて笑ってくれるのだ。そんな僕が好きだと、格好良いと言ってくれる。褒められるのが快感なんじゃない、ただありのままの僕でいられる。自分が良しとする事を否定しないでくれる。簡単そうで難しい事をさらりとやってのけるのだ。それが本当に、純粋に凄いなあと思う。尊敬しているんだ。
こういう相手に出会えるのはなかなか無いんじゃないかな、少なくとも過去にはなかった。
「良かったなあ、光坊」
「ふふ、もう、その呼び方やめてくれないかな」
「嫌がっているようには見えないぞ!」
わしゃわしゃっと頭を撫でられて思わず笑ってしまう。と、その隙にスマホを奪われてしまったかと思うとそのままどこかに電話をし始めた。
画面は、先輩に見せようと僕と彼女の写メのままでロックは外れていたのだ。
「ち、ちょっとなにしてるの!」
「お!繋がった!もしもーし!きみが光坊の彼女だな?」
ちょっと!!!!
どうやらあの子に電話をかけたようだった。ぶわりと体温が上がる感覚がする。一気に汗ばんできた。慌ててスマホを取り返そうとするもひょいひょいと交わされてしまう。あいにくこの居酒屋は狭く隣の席との幅があまり無い。体の大きな僕は阻まれて上手く身動きが取れなかった。
しかも先輩を見るとあの子と楽しげに話しているじゃないか!彼女も彼女だよ...あまりそういうの気にしないから...
ああもう、こうなったら諦めて話が終わるまで待つしかない。今日1番に大きい溜息が出た。
聞こえてくる会話はまあもちろん僕らのことなんだけどなんだか居た堪れない。15分位してようやく、けらけらと笑いながらも先輩はスマホを僕に返してくれた。まだ通話は繋がっているようだ。
「も、もしもし?ごめんね、あの」
『あ。今度は本物だ』
慌てて会話をしようとすると聞こえてくるのは先輩と同様に楽しげな声。