第9章 誰かと一緒に生きていくのなら君がよかった
「おお、きみにしては随分と地味な子じゃないか」
「ちょっと、地味とか言わないでよ...」
「否定はしないんだなぁ」
「怒るよ?」
今日は久しぶりに大学時代の五条先輩と居酒屋にいる。あの子と呑むようになってからはなかなか行く事がなかったから、本当に久しぶりに。
先輩は飄々としているが洞察力が長けておりいざと言う時につい頼ってしまう事がある。鋭い言葉を投げかけられたりもしたが、元を正せばこちらの事をちゃんと考えてくれているものだとわかる。ただ甘やかすことは無くあくまで僕自身が気づいて動けるように、と。心底尊敬してやまないけれど、未だその言葉は伝えられずにいる。
...今回は特に相談はしなかったけれど、不本意ながらも何かと落ち着かなかった僕を気にかけてくれていたようだ。だから報告も兼ねて。
普段報告をする時はなんというか、浮かない顔をしているな、と必ず突っ込まれてしまうんだけど今日はそれがなく晴れ晴れとした気持ちだ。彼女の事を聞いて欲しくてグラスの酒もそのままにつらつらと話し続けた。
「...ははっ」
「?なにかおかしかった?」
「いやなに、今のきみはまるで憑き物が落ちたかのようだと思ってな」
「そうかな、そんなに違うかい?」
「ああ、そりゃあもう驚かせてもらったぜ」
楽しげに笑う先輩の視線がなんだか気恥ずかしくて誤魔化すようにもうすっかりぬるくなったグラスに口をつけた。わからなくはない、だって今が本当に楽しくて、幸せで。
あの子は不器用だけれど小さなことも見逃さずに拾ったりよく見てあげれば恥ずかしそうに、そして嬉しそうに笑う。兄弟が多かった僕は甘えながらもどうしたらみんなが喜んでくれるだろうと良く動きを観察したものだった。別に虐げられた環境にいた訳ではなくただ嬉しそうに笑う家族の顔を見るのが好きだったんだ。だから、そんなことはまったく苦にならないしどんどん色々な事が知りたいと思う。