第8章 そろそろ終わりに致しましょう
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楽しい時間は本当にあっという間で、今日の朝の死にそうな自分は何処へいったのかと(まあそれには色々誤解があった訳だが)現金だなとちょっと苦笑いをする。それくらい楽しくて、もっと色々な長船さんの一面が見たくて知りたくて。もうとっくに吹っ飛ばしていた心の蓋も探す気にもならなかった。
...次は、いつ会えるだろうか。
楽しさが大きかった分、今この別れ際が本当に名残惜しい。...彼も、そう思ってくれているだろうか。
楽しかったですね、とかお土産たくさん買い込んじゃいました、とか本当に他愛の無い会話が口をついて出てくるのに、肝心な一言を言う勇気がどうしても出ない。告白だとかそんな大それたことではない、ただ、ただこの関係を途絶えさせたくないのに。
「...また、飲みに行きましょう!」
やっとの事で言えた言葉がこれで。なんとも情けない...けれど、長船さんとの“次“がまたあるのならば、私は頑張れると...そう思った。んだけど。
「...うん、その事なんだけどね...もうそれも...終わりにしようか」
同意が返って来なかった。
私は酷く動揺してしまって、さっと血の気が引いたような感覚に襲われる。さっきも言ったけど私はポーカーフェイスなんて出来ない。今の長船さんの言葉で半泣きになっている。よっぽど酷い顔をしていたのだろう、彼がハッと驚いた素振りを見せたかと思うと慌てて続きを話し出した。
「ああ!違うんだ!ごめんね、そんな顔をしないで」
「...」
「今まで、君とお酒を飲みながら色々と話が出来て...本当に楽しかったんだ」
「.....わたしも、です」
「ありがとう、だけどね」
1度言葉を区切り、長船さんはこちらに向き合いそのまま私の両手を取るときゅ、と握った。不安げだがひどく真剣な眼差しが射抜いてくる。