第8章 そろそろ終わりに致しましょう
長船さんは、ちょっと困ったように笑って「それじゃあこうしよう、せっかく2人で来たんだし色々共有したいだろう?」と私の手をなんの躊躇いもなく取って歩き出したのである。
平然としているように見える?とんでもございません、脳内での状況処理が追いつかずに大変な事になりました。だって、手を、繋ぐって...。
長船さんの大きくて温かい手が優しくて、でも力強くて当たり前だけど“男性“だと言うことを今までで1番意識してしまったのだった。
イルカショーの最中はさすがに手は離していたけれど、どうやら今日はこのまま繋いでいく方針らしい。
傍から見れば良い雰囲気なのかも知れないがコレ...もしかしなくてもアレだ、勝手にどっか行っちゃう子供をはぐれないようにつなぎ止めておくヤツだ。だからだ、だからちょっと困ったような中にも慈愛的なのを感じ取ったんだ。
仕方ないと言えばそうなのだが私は本当に、つくづく雰囲気クラッシャーだなあと呆れ通り越して笑えてきてしまう。まあ、もうそれでいちいち落ち込むことは無いんだけどね。彼の前ではそういうのは気にとめなくて良いと分かったから。
「なんか、ふふふ、私子供みたいですねえ」
自棄になった訳でもなく本当に面白くなってきてしまって思ったことを口にする。
「はは、良いんじゃないかな」
「前にも言ったけど、取り繕わない姿でいる君が良いんだ、本当に楽しんでくれているのが分かるしね」
「...それは、」
「うん?」
「わかりやすい、という意味ですよね」
「ああ、そうとも言うね」
で す よ ね
ポーカーフェイスとか無縁ですし?めちゃくちゃ顔に出ますからね!自覚してます!
「だから僕も楽しいんだ」
だけど、そんな私と一緒でもこんな風に言ってもらえる...笑ってもらえるから...私も素直になれるんだなあ。今日は、こんな気持ちをこの短い時間で何度も噛み締めてはなんとも言えない、ちょっとこそばゆい感覚に身を委ねている。そして彼は更に爆弾を落とすのだ。
「...それにね、僕は君を1度も子供だなんて思った事は無い」
「可愛らしい女性だなって」
「...ま、またまた...」
「ふふ、“思わせぶりな事を言うな“って怒られたあの日からも、君に対して思うことは変わらないよ」
私がイルカだったら、今何回転くらいしてるだろうか。