第7章 水底に落とす気持ち
「...や、あの、さすがに美味しそうはナシですよね...すみません」
「はは、良いんだよ謝らないで?」
「いやでも...雰囲気ぶち壊しだしなんか...」
「なんか?」
「...馬鹿みたいで、わたし...」
思っていた以上に声が弱々しくなってしまった、そんなつもりはまったく無かったしサッと謝って次は大人しくしてようとしてたんだけど。...してたんだけど。
過去の事は私の中で割と自業自得ながらもショックというか...うーん上手く言えないけれど簡単に言ってしまえば傷痕が残っていた事案なんだなあと改めて実感してしまって。そうだ、だから言動はもう“これが自分なんです!“的に自ら示しながら生きていこうと思ったしそうしてきた。おかげ様で今の今まで恋人など縁がなくむしろ男女共に友達が増えた。嬉しかったけど、私は所謂そういう対象になるような女では無くなっていた。
いや、そうなったのは本当に自分のせいだし何なら今思い出したけど前回長船さんの”彼女できた疑惑”の時に私はかなり余計な事言ってしまったなあと震える。あの時の目がめちゃくちゃ怖かったな。今どうこうとかいう問題じゃなかったわ...ああこれ詰んでたわ...。自分から色々叩き折ってる気がするぞ...。
ぽん
ふと肩に手を置かれてびくりとしてしまった私にお構い無しに、長船さんは私に目線を合わせるように屈むと水槽の中を指さした。
「...見て、あれ」
「えっ、あ、はい...鰯...ですかね...?」
っていきなりなんだ!!??めちゃくちゃ低音でいい声が右耳から流れてきてうわなにこれ何この状況!!?!?ていうか鰯...鰯に何かあるのか...?なんとか平静を保ち長船さんの言葉に耳を傾ける。その視線の先には見事な鰯の群れが水槽内を泳いでいた。