第7章 水底に落とす気持ち
「綺麗だね」
「そうですね~!いい感じに締まってるし美味しそう...」
「えっ」
「あ」
友人にいつも、お前は黙っていればマシなのにと言われる。思った事をすぐ口からポロっと出してしまうからだ。いやさすがに言わなくていいような事や言っちゃダメな事は言わない。
なんというか、こういう良くよく考えたら薄暗い水族館で青い大きな水槽の前...悠然と泳ぐ魚達を目の前にとても雰囲気がある時間を過ごしているにも関わらず言動が残念になってしまうように...。例にもれず早速やらかしてしまった。良くいえば子供みたいに無邪気な、悪くいえば頭の悪い(この場合良い例になっているのかかなり不安ではあるが)...そんな私に最初は良いが呆れて去っていく人もいた。まさに、そんな人だとは思わなかった、と。
長船さんはやっちまったと口を押さえて水槽を見つめる私をガン見している。私は長船さんの方を見ていないからどんな顔をしているのか分からない...分からないけど多分...”何言ってるんだこいつは”みたいな事を思っているんじゃないかな...いくら彼が優しく良い人でもさすがに今のは...今のは... 。それなのに、悶々としている私の斜め上から聞こえたのはため息でも窘める言葉でもなく
「...ふっ、ふふ...美味しそうって...君...っ」
ツボに入ってしまったのか声を殺しながらわらう声だった。もうアレだ、鼻で笑うとかそんなんじゃない。思わず彼を見れば私と同じように手で口元を覆いフルフルと肩を震わせている。えっそんなに?そんなに面白かった?
過去に鼻で笑われたり引かれたとしても好意的な笑みを浮かべる人はいた。でもこんな、あの、爆笑?みたいなのは今までに無い反応で戸惑ってしまった。ああでも雰囲気壊しちゃったのは事実だしここはちょっと謝らなければ...過去の事もあり若干焦っていた私はすかさず長船さんに声をかけた。