第1章 さよならの後には
ああ、しかしあれだ、いくら緊急とはいえ飲んだ時に走るもんではないな。あっつい上にちょっとだけふらつく。そしてお兄さんの目の前で仁王立ちしているのもアレなのでソファのお隣に失礼させて頂くことにした。幸いソファは横に広いので少し離れた位置に。
ふう、と一息つく。ソファの座り心地が思った以上に良く気持ちがいい。あー、これは良い...流石は高級レストランだ...などと呑気な事を考えていると、隣でちびちびと水を飲んでいたお兄さんがこちらを見ていた。な、なんだ。
「...大丈夫、です?落ち着きました?」
「うーん、まだちょっと違和感があるけれどさっきよりはだいぶマシになってきたかな」
「それは何より」
見つめられるのに耐えられなくて思わず声をかけたけど、あれ、なんだか今頃になって気まずさが出てきたぞ?ほんとなんでこの人ずっと真顔でこっち見てるんだろう、こわい。
「...いつもはね、お酒を飲んでもこんな風にはならないんだ」
「そうなんですか」
「ちゃんとセーブ出来るんだけどね...今日はダメだったよ」
「...相当飲まされてましたもんねえ...」
「見てたのかい?」
「だいぶ目立ってましたので、つい」
「はは、なるほどね」
いや、別に貴方様が普段どう飲んでどうなろうと私には関係なくないですかね?何故こんな話をするのだろう、相変わらずこっち見てるし。
気分転換になるのだろうか...見ると、顔色は少しだけ良くなっている、ような気がする。
私が付いて見てなくてもまあ大丈夫かな、そろそろ戻ろうかなぁ...そう思った所でお兄さんがポツリと呟いた。
「...格好つかないね...」
小さく、低く吐き出すかのような言葉。
多分、多分だけど話を聞いた限りでは...いつもの自分のペースを乱されてしまいうまく立ち回れなかった事が悔やまれるのだろう。合コンに参加していたのだしそこそこの出会いや駆け引きに期待をして来ていたのだろうし。なのにその場で不可抗力とは言え体調を崩すことになってしまうなんて。まあ、若干自業自得と思わなくはないけど気持ちはわかる。でもまあ仕方ないじゃないか、今後一生どうにもならないなんて事にはならなそうな将来有望そうなイケメンさんだし。