第3章 たとえ隣にいるのが私でなかったとしても
故に、彼の優しさや穏やかさが形成されたのもなんだか頷ける。深く傷付いた分周りを気遣える、痛みに寄り添えるのだろう。
だから多分、私の心の機微にも気づいたんだろうな...“伝わりにくいけれど、僕にはちゃんとわかるよ“だなんて。
汲んでもらえるのはありがたい。私は昔から感情や気持ちを伝えるのが下手くそで誤解をされることもあった。長船さんみたいに冷静に私を見て考えてくれる人はそうそういない。
だから楽だと言ってしまうのかも知れない...甘え過ぎだとは思う。いずれは彼は誰かと幸せになるのだから変に依存してはいけないのだけど、こうして今までズルズルとしているのも事実で。
「こら、眉間にシワよってる」
「う、」
「...何か、難しいことがあるの?」
「え、あ、いや...そういう訳では無いんですけど」
「けど?」
「....突っ込みますね...」
「だって、最初は楽しく話していたのに急に黙り込んで難しい顔してるんだもの」
「そんなヤバい顔してました?」
「それはもう」
心配げに眉を八の字にしている先輩の顔を見てちょっと笑う。何笑ってるの!なんて怒られたが、先輩の顔を見て和んだなんて言ったら更に怒られそうだからやめた。
「距離感は大事だなあと思っただけです」
「距離感?」
「そうそう、あ、先輩そろそろ行かないと!」
「あー!もう!はぐらかすのなし!!!」
*
カフェを出て行こうと決めていたデパートへと向かう。先輩はあれから何も聞かずにいてくれていて正直有難かった。さっきぼんやりと浮かび上がりそうになったモノが何か分からないうちに見ないフリが出来たからだ。これはきっと気づいてはいけない、なんだかそんな気がした。
「ね、ねえ」
しばらく談笑しながら歩いた所で突然先輩が私の上着を強く引っ張る物だから上体が後ろにそのままブレた。
「わわ、な、なんすか!」
「あれ...」
「??」
私の後ろに隠れるようにしてくっついた先輩がそっと前を指さした。声も心做しか小声でなんだどうした、何があったんだと思わず指をさされた方向を見る。