第3章 たとえ隣にいるのが私でなかったとしても
「...あ」
私たちのいる位置から街灯2〜3本先の距離に見えた姿に思わず目を見開く。あの背中には見覚えがあるし、なんならこんな明るい時間に見るなんて初めてだなんて呑気に思っていたのだけれど、その隣にいた小柄な女性らしき姿に完全に固まってしまった。
あれは、長船さんだ。あのがっしりとした姿に黒いスーツをビシッと着こなしているのと、ちょっと青みがかった黒髪、長めの襟足。整った横顔...間違いない。
隣の子はちょっと明るい色の長い髪をなびかせて可愛らしいフリルのついたスカートを履いていた。そして長船さんと腕を組んで仲良さげに歩いている。
なんだ、とうに見つけてるんじゃないか
隣に置きたいと思える女の子を
言ってくれれば良いのになあ、みずくさい
「...大丈夫?」
「え」
先輩の言葉に我に返った。私はだいぶ固まっていたようだ、いけないいけない。
「大丈夫ですよ!そもそも私ら付き合ってないんですよ?」
「それは、そうかも知れないけど...」
「知らなかったんでちょっとびっくりしただけですって!」
行きましょう!と笑って先輩の背を押す。固まっている場合ではない、動くのだ。
先輩は戸惑い気味だがまた何も聞かずにいてくれた。
「ふふ、今度とっちめてやりますよ」
なんて言っては見たがその”今度”があるかどうかは分からない。でもそれで良いのかも知れない。ちょうど良い機会だ。
私が願うのは長船さんの幸せなのだ、たとえそこに私がいなくても。彼が心底幸せになれるのならばそれでいい。
さっき蓋をしたナニか?なんでしたっけ?