第3章 たとえ隣にいるのが私でなかったとしても
「なんというか、気の置けない友達って感じですよ」
「気の置けない、かあ」
「上手く言えないんですけど、お互いの性質とかも分かってて突っ込むときは突っ込む、外す時は外すみたいな...」
「うーん、よく分からないけれどそれだけ心を許しているっていうこと?」
「間違ってないと思いますよ」
簡単に言ってしまえば楽“なのだ。
ただそれは決して悪い意味ではなく、礼儀知らずだとか怠惰なものでもない。実際長船さんは身なりや言動をとても気にしている。私も何度か注意されたくらいだ。髪が乱れているだとか女の子なのにその動作はだめだ、とか。まるで親のような部分がある。けれど単に口うるさいという訳ではなくこちらの事を考えての言動なのだと思えるから不思議だ。
身なりと言ってもただ単純にブランド物に溺れるわけでもない。自分の身の丈にあった物をきちんと見極め良いものを持ち、さらにそれに見合う自分であれと奮い立たせる。欠点すらも魅力に変えられるようにと。
以前ぽつりと聞いたのは、長船さんの右目。
幼少の頃に事故に遭い視力が著しく低下、瞼にも傷跡が残ってしまい随分といじめられたそうだ。
右側だけ長めの前髪がそれを隠すようにしていたから気になってはいたが流石に突っ込んで聞くことは出来ずにいたのだが、“気になるでしょ?“となんてことのないような雰囲気で話してくれた。
彼が凄いのはこれを必要以上にハンデとしなかった所だ。体を鍛え知識を得て何があっても自分で立ち回れるように。
多分私ではこんな風にはならなかっただろう。凹み恨み引きこもっていたかも知れない。故に努力と苦労は計り知れない。
ただただ、格好良いと思った。同情も憐れむ気持ちも無く本当に純粋に思った。
本当に自然に“格好良いですね“と言葉が出たが、その時の長船さんの屈託のない心底嬉しそうな笑顔は一生忘れることは無いだろう。誰にも言わず墓場まで持って行こうと決めている。
それよりなにより、こんな大事な事を私なんぞに話してくれた、その彼の気持ちが嬉しかった。