第2章 翡翠の花嫁(元就/狂愛チック/戦国)
私の縁談の相手は、優しく礼儀正しい小国の軍師様でした。
団子屋で働く私の姿を一目見て気に入り、妻として私を城へ迎え入れたいそうです。
両親は勿論のこと、私の縁談話を噂で耳にした町の人々も心の底から喜んでいました。
身分の高い者に見初められ、城へ迎え入れられるのですから当然のことでしょう。
母は私の手を取り、泣きながら「良い人に巡り会えて良かったわね」と笑い
父は「幸せになりなさい」と私の背中を押しました。
……そして、私は…………
今まで大切に育ててくれた父と母のため、覚悟を決めました。
お侍さまへの想いを捨て、軍師様の奥方になることを。
「………………よ、嫁ぐという噂は本当か?」
「…………っ…………」
輿入れの二日前、私が団子屋で働く最後の日。
お侍さまが店にいらしたため、いつも通りに迎えようとした私。
しかし、お侍さまが私の手を取って何も言わずに外へと歩きだし、人気のない林に着くや否や最初に放った言葉は、私が軍師様へ嫁ぐのかという内容でした。
「………………はい……」
何だかいつもと様子の違うお侍さまに不安になりながらも、私はゆっくりと頷きました。
お侍さまに嘘をつく理由が無いからです。
「…………その話は誰が決めた」
「軍師様から、父と母に。……あの、お侍さま。それがどうかしましたか……?」
「…………………………」
何も言わず、私を見つめるお侍さま。
……もしかして、お侍さまは私のことを……と、淡い期待をしてしまいそうになるのをぐっと堪える。
「…………そなたは、」
「……?」
「そなたは、それで満足か?」
嗚呼、神様。
これは夢か幻でしょうか?
お侍さまの表情が、声が、全てが「私」を求めているのです。
……口に出さずとも伝わるそれは、自惚れではなくたしかに私と同じ想い。
「…………いいえ、だって私は……私は、本当は……お侍さまを……っ、ん……」
「お慕い申しておりました」と言葉が紡ぎ出される前に、私はお侍さまの腕の中に抱き寄せられ……そっと、優しく口付けを受けました。
甘く、甘く、蕩けてしまいそうになる愛しいお侍さまからの口付け。
捨てたはずのお侍さまへの想いが一気に溢れ返り、私は嬉しさから涙を流してしまいました。