第2章 翡翠の花嫁(元就/狂愛チック/戦国)
「時に、そなたはこの地を統べる者の名を知っておるか?」
「この地を統べる御方と言えば……毛利元就様のことでしょうか?」
お侍さまが海の向こうの国のお話をしてくださっている最中、不意に質問されたのはこの安芸を統べる毛利元就様についてでした。
「そうですね……実は私はまだ毛利元就様の御姿を見たことがないのですが、とても頭脳が優れた御方で、翡翠の鎧を身につける武将様だと聞きました」
「……ふむ、他は?」
「他、ですか?……そういえば、前に団子屋に来た方が毛利元就様を酷く冷酷な御方だと言っていましたが……」
「……………………」
「……?お侍さま……?」
毛利元就様のことを話していると、お侍さまが突然俯いてしまいました。
……お侍さまは毛利元就様を知っているのでしょうか?
そう思いながらお侍さまをじっと見つめていると、私の視線に気づいたお侍さまがゆっくりと顔を上げて私へ「そなたもそう思うのか?」と問いました。
その時のお侍さまの表情は何だか切なげで、私は何故お侍さまがその様な表情をしているのか不思議でたまりません。
「……いえ、たしかにその様な話は聞きましたが……私は、そんなことはないと思っています」
「…………」
「私達がこうして平穏な日々を過ごせているのは、他でもなく毛利元就様がこの地を治めているからですから」
「………………そうか」
私の言葉にどこか安心したように、口元に小さく笑みを浮かべて頷くお侍さま。
……初めて見るその優しい表情が、それはそれは素敵で…………
私の中でますます、お侍さまへの想いが募っていくのを感じました。
嗚呼、お侍さまと生涯を共に出来ればどれほど素敵なことなのでしょう。
けれども、これは決して叶わぬ恋。
お侍さまは身分の高い御方。
団子屋の娘である私と結ばれるという、御伽噺のようなことは起こりません。
……でも、私は……
叶わぬ恋だと分かっていても、お侍さまを…………
そう思っていたある日。
父が私に、「縁談」の話を持ってきたのです。