第4章 ■遣らずの雨(佐助/微裏/現代)■
「…………え?それだけで、いいの……?」
「言ったでしょ?俺様、今日は何もしないって。……あ、でもちゃんがシたいって言うなら話は別だけど?」
「っ……!!!!?」
ストーカーの発言に首をブンブンと横に振って必死に否定すれば、「そんなに否定しなくても良くなーい?」とわざとらしい声でストーカーは残念がった。
……冗談じゃない。
一瞬だけ快楽に溺れそうになったのも体が疼いているのも事実だけれども、自ら望んでその先の行為をしたいだなんてこれっぽっちも思わないのだ。
「ほら、早く名前を呼んで?ねっ?」
しびれを切らしたのか、ストーカーが急に私の身体をくるりと反転させて私の言葉を急かした。
そのせいで強制的にストーカーと向き合う形になってしまう私。
……たった一言……名前を呼んで、これが終わるのなら…………
「……っ、さ……佐助さん……?」
恐る恐る、私はストーカーの名前を呼んだ。
するとーーーーー
「………………やっと……俺様の名前、呼んでくれたね」
「……っ……!!」
心の底から安堵したかのように呟き、ストーカー……佐助さんが、ふにゃりと笑みを零した。
それはまるで恋人に名前を呼ばれた時のような……愛おしい気持ちと喜びの混ざった、とても綺麗な笑顔で……
………………私はその笑顔に、不覚にもトクンと胸を高鳴らせてしまったのです。
ーーーーこの時の私は、気付いていなかったのだ。
たった今抱いてしまった感情の正体がストックホルム症候群により生み出されたものだということを。
……そして、何より……
そのストックホルム症候群を巧みに利用した上で、私を心身ともに堕とそうとしている佐助さんの思惑に……
私は全くといいほど、気付いていなかったのでした。
【END】