第4章 ■遣らずの雨(佐助/微裏/現代)■
ーーーーそんなストーカーに付きまとわれる日々に、とうとう変化が起きた。
それはよく晴れていた「はず」の日のこと。
朝はあんなにもいい天気だったのにも関わらず、午後になって急に土砂降りの雨が降り出してしまった。
「……折り畳み傘、持ってくればよかったな……」
大学と私が住んでいるアパートの距離はそこまで遠くはないものの、傘無しで向かえば全身びしょ濡れになってしまう。
どうしたものかと頭を悩ませて、浮かび上がった答えは「大学の近くにあるコンビニへ傘を買いに行こう」というもので……
「傘が売り切れる前に、急いで買いに行かないと……!!」
急な雨なのだから、他の人だって同じことを考えているはず。
そうと決まれば急いでコンビニへ向かおうと、私は走り出した……のだが。
急ぐあまり、道の途中にある曲がり角でドンっと勢いよく通行人とぶつかり、私は尻もちをついて倒れてしまったのだった。
「っ!!?す、すみません……!!」
慌てて起き上がり、私はぶつかった相手……傘を差したバンダナの男性に対し、申し訳なさからひたすら頭を下げた。
すると男性が何故かその場にしゃがみこみ、頭を下げている私の顔を下から覗き込むや否や、にっこりと優しく微笑みかけーー
「俺様言ったよね?……明日は雨が降るから傘を忘れちゃダメだよ、って」
「!!?」
ーーその瞬間。
ぞくり、と全身の毛が逆立った。
男性にしては少し高めの、聞き覚えのある声質。
「俺様」だなんて個性的な一人称。
……間違いない。この男性が、私の……
「そんなうっかりなところも可愛くて可愛くて俺様大好きだけれど、こんなに身体を濡らしちゃ風邪引いちゃうでしょ?とりあえずここからならちゃんの家より俺様の家の方が近いから、着替えに行こうねー?」
「……あ、あっ……!!?」
目の前の相手がストーカーだと分かり、これまでにないほどの恐怖に陥った私に追い討ちをかけるように男性……
否、ストーカーが私の手首を掴む。
嗚呼、急いで逃げないと大変なことになってしまう!!……なんて、頭の中では分かりきっていることなのに……
肝心の私の足は恐怖のあまりガクガクと震えてしまい、身体は思うように動かなかった。