第3章 ◇給料三倍、疲労は……◇
「ーーちゃん、はい」
「あっ……ありがとうございます、佐助さん」
「今日は某もお弁当を拵えたので御座る!!」
ちゃんがお仕事に行く時間になり、俺様は彼女へお弁当箱を手渡した。
いやー、あの後大変だったなー。
旦那ときたら「お館様を作る!!」って言い出したり、それは流石にって止めたら「ならば虎を!!!!」って……
結局出来上がったのは虎どころか兎ですらない何かだった。
でも旦那にはソレが虎に見えているのか、物凄く満足そうな表情をしてて……あぁ、もう。
疲れが三倍どころか四倍も五倍も溜まって、俺様冗談抜きで頭が痛いや。
「……えっ、幸村さんも……?」
驚いた顔のちゃんが、俺様と旦那を交互に見る。
そりゃ、そうだよねー。
俺様もちゃんの立場ならびっくりするって。
「大丈夫、ちゃん。旦那は一応出来る方だからね」
「そうだったんですね。ありがとうございます、幸村さん」
「うむっ!!!!」
うーん。
……どちらかと言えば「出来る方」だけれど、自分の力量以上のことをやりたがっちゃうのが旦那ってのは言わないでおこう。
「佐助さん、後のことはよろしくお願いしますね。帰りに何か買ってきますから」
「はいはいっと。任せといてー」
「殿!!お気を付けて!!!!」
「……プリンぞ」
「プリンですね?分かりました。それじゃあ、行ってきます」
そう言って、ちゃんはお仕事へと向かった。
さーて、俺様は台所の後片付けをーー
「…………殿……」
ふと、ちゃんが出ていった扉をどこか名残惜しそうに見つめる旦那の姿が俺様の目に映る。
……そういえば。
旦那ってば居候の身とはいえ、ちゃんをやけに気にしているような……?
まさか…………旦那は、ちゃんを……
「………………いやいや、ない。それはない」
「む?佐助……?」
ーーあの旦那に春が来たなんて、流石にありえないか。
【END】