第2章 翡翠の花嫁(元就/狂愛チック/戦国)
【Side:元就 1/2】
ーーそれは一昨年の冬の事。
身分を隠して入った茶屋で出会ったのは、という生娘だった。
初めは団子の味が気に入り通っていたが、と話していく内に我の中で……ある奇妙な感情が湧いて出た。
その感情の名は「安らぎ」。
そして我は悟ったのだ。
このという女を好いている、と。
「、今日は瀬戸内の海の話をしてやろう」
「海の話ですか?」
は安芸より外の地へ足を踏み入れたことがないらしい。
そのため、我が外の国の話をすればいつも目を輝かせ話に聞き入っていた。
特には海が好きだと言う。
目を閉じれば「いつか船に乗って、視界いっぱいの広がる海を見てみたい」と、それはそれは楽しそうに我へ語るの姿が目に浮かぶ。
…………我の手を取ればすぐにでも見せてやれると言うのに、はなかなか我の手を取ろうとはしなかった。
恐らくは身分の差を気にしているのであろう。
だが、それは我にとっても好都合であった。
日を重ねれば重ねるほど、
を我が手にするための策が整うのだ。
……そう、を我が正室として迎え入れるための策がな。
を正室としては周りに納得させるに必要なのはある程度の身分、そして教養の二つ。
故に足らぬ学や作法は会話の中で我が教え、半年ほどではそれなりにこなせるようになった。
そうなれば我が行く手を阻むは身分のみ。
当然、用意にはかなりの月日が掛かったが……ついに、全てが揃った。
これで残すはの手を取るだけ。
そう思っていた我の元へ入ったのは、不愉快極まりない知らせだった。
「………………よ、嫁ぐという噂は本当か?」
ふつふつと胸の内で煮え滾る怒りをどうにか抑えながら問えば、ビクリと身体を震わせる。
やがてどこか躊躇うように視線を逸らしながらも、「……はい」と呟き、静かに肯定をする。
そう。
肯定をしたのだ。
ーーーー我以外の者の元へ、嫁ぐと。