第8章 読めない彼 【安室】
「量は少なくとのことだったので、サンドイッチにしました」
「ありがとう。わがまま言ってごめんなさいね」
「いえいえ。それでは」
一礼して行く安室を一瞥し、十華は控えめに盛られたサンドイッチを手にした。口に運んで、ぱち、と目を瞬かせる。
(うわ、美味しい…)
コーヒーといいこのサンドイッチといい、安室は何者なのだろうか。こんなに美味しいサンドイッチを食べたのは初めてかもしれない。専門家でもないのにこんなに腕がいいとは。ちらと安室を見れば、今の様子を見られていたのか、にこりと笑われた。う、と十華は少し恥ずかしくなり、目を逸らす。
(うー…このまま餌付けされそうでこわい)
彼の本性がまだ見抜けないから、警戒すべきだというのに。やつらと関係があるにしても、ないにしても、只者でないことは確かなのだから。できればせめて、やつらとは関係ない人でいてほしいと、十華は無意識に心のどこかで思っていた。
だが後日、十華は盗聴した先で彼の異名をきくことになる。来日しているFBIが追う組織が使う方式、酒の名前のコードネーム…『バーボン』と。