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人生は常に事件に満ちている【コナン】

第5章 沖矢昴という男 【安室】


(トリガー跡…)
これは普通、一般人の手につくものではない。サバイバルゲームや射撃が趣味だと言えば別ではあるが。待っても握手を交わしてこないことを不思議に思った昴が、「あの…?」とこぼした。十華はハッとし、顔を上げて昴を見る。若干困った様な、〝普通〟の顔。十華は小さく息をついて気を落ち着かせた。
「…悪いけど、信用できる相手としか、握手しない事にしてるの」
「あ…そうですか、それは失礼しました」
「ごめんなさいね」
少し残念そうに昴が手を引っ込める。警戒していることは、昴にも、コナンにも気づかれているだろう。だが昴は特に気にした様子も無く、「そうだ」と次を切り出す。
「よろしければお茶をご一緒しませんか?ちょうどコナンくんを招いたところだったので」
「え?あ、そう、ね…」
ちらとコナンをみる。だがこの〝普通でない少年〟は、にこりと笑っただけだった。
「…それじゃ、お言葉に甘えて」
「はい、どうぞ」
昴が背を向けて歩き出し、それにコナンが続く。この違和感はなんだ。この男はなんなんだ。ぐるぐると渦巻く不思議な感覚の答えが見つからないまま、十華も工藤邸に足を踏み入れた。








工藤邸に入るのは初めてであるが、そもそも工藤家の人々と関わりが無いのだから当然だ。促されるままリビングのソファに腰を掛けて昴を待つ。しばらくして、くん、と鼻についたのは、コーヒーの香りだった。
「すみません、勝手にコーヒーにしましたが、大丈夫でしたよね」
「え、えぇ」
質問ではなく確認で来たことに、また違和感。コナンから十華がコーヒー党だと聞いていたのだろうか。コーヒー自体はどこにでもありそうなものだ。受け取ったコーヒーカップを鼻に寄せて楽しんだ後、それを口にして、十華はピタリと動きを止めた。
「青黛さん?お口に合いませんでしたか?」
「……はは。なるほど、そういうことだったのね…」
コトンとカップをテーブルに置き、そのままテーブルに肘をついた。瞬時に、わずかに空気が変わったのを感じ、また「ふふ」とこぼす。
「やっぱりね…そんな簡単にくたばるわけがないと思ってたのよ……ね?秀一」
顔だけ上げて、彼を、〝沖矢昴〟を見つめる。真っ直ぐな視線が昴を捉えて離さない。昴もまた眼鏡の奥からじっと十華を見ていたが、やがて、ふっと息を漏らした。
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