第8章 女優と探偵
5年前のことを思い出していた時、視界に1人の女性が映り込み、目で追ってしまった。
数ヶ月に一度程度、メールのやり取りをしていた人物。
名ばかりの友人のつもりが本当に友人のようになってしまったのだから笑ってしまう。
みなとが日本に戻ってきたというのは聞いていたが、まさかこんなに近くに居るなんて、想定外だった。
「どうしたんですか?ぼんやりとして。」
隣でハンドルを握る男から声を掛けられて現実に引き戻される。
彼女をこちらに巻き込むわけにはいかない。
そう、彼女はシルバーブレッドとエンジェルと同じ、私にとって守らなければならない対象なのだ。
隣にいる男に関係を悟られるわけにはいかない。
「いいえ…なんでもないわ。」
そう答えながら彼女を視界の端へ追いやる。もちろん動向は確認しながら。
「そういえば…………ですよね………なんて……」
そうね、と内容も聞かずに生返事をしながら様子を窺う。
どうも彼女の様子がおかしい。
目元には隈、頬も少し痩けたのではないだろうか。
あんなにキラキラしていた瞳はくすみ、何かに怯えている様子だ。
これは厄介ごとに巻き込まれている可能性が高い、助けてやりたいが、表立って動くことはできないため「探偵」としての彼に調査を依頼してもいいかもしれない。
あくまでも個人的な依頼として。
エンジェル達のことがバレている以上もう1人増えたところで問題ないだろう。
今はまず、彼女の身の安全を第一に考えてやるべきだと判断した。