第9章 助け
最近、感じる視線の数が増えたような気がする。
一つは勿論、先日から茶封筒を送りつけてきているストーカーであろうが、もう一つの視線の正体が掴めずにいる。
あれから毎日メッセージ付の写真の入った茶封筒が投函されている。
食欲がないことを生徒や他の教員に心配された際の「ダイエット」という言い訳も苦しくなってきた。
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その日は残業で帰りが遅くなってしまった。
すっかりと暗くなった街をトボトボと歩いて帰宅する。
「みなと!」
突然後ろから呼び止められ、振り返るとそこには降谷基、安室が立っていた。
「久しぶりだな。……痩せたか…?」
ジッと彼女を見やった彼は少しぎこちない笑みを浮かべており、心配されていることがひしひしと伝わってくる。
『ダイエット成功かな?』
心配させまいと満面の笑みで答えてみる。
彼には全てお見通しなことぐらいはみなともわかっていた。
「じゃあダイエット成功のご褒美にヘルシーで美味しいご飯でも作ってやろう。」
そう言ってみなとの頭を撫でた降谷は自然な所作で彼女の手を取り、歩き出す。
久しぶりに人の暖かさに触れたみなとはふと立ち止まってしまった。
「どうした?帰るぞ。」
『だ…だめ!』
咄嗟に叫んでしまい、思いの外大きな声に自分でも驚いた。
どちらにしても同じ家だろう、と言う声はみなとの声に釣られたのか、普段の彼のそれに比べると大きな声だったような気がした。
『わ、私…よ、寄るところがあるから……』
我ながら吃ってしまった、と少し気不味く感じていると、そのまま腕を引かれて車に乗せられてしまった。
「寄るところがあるなら送って行こう。こんな時間に、本当に行くところがあるならな。」
腕を引かれている途中、耳元で囁かれたその言葉に焦るも、男の力に勝てる筈もなく、ただただされるがままになるしかなかった。