第3章 ✼翁草✼
§ 叶多Side §
「うん……ごめんね。やっぱり帰りたいよ」
そう言われた時、俺は心底後悔した。
結をこの時代に連れ戻してしまった事。
俺も沢山考えて悩んでこの結果に達したはずなのに。
結の幸せを願って自分が悪役になる道を選んだはずなのに、半年以上たっても結は心の底から笑えていないようだった。
「謙信の所に行くのか。気を付けて行って来いよ」
「うん!行ってきます!」
いつの日か聞いた政宗さんと結の会話。
その時みた結の顔は遠くからでも分かるくらい幸せそうだった。
だけど今の結はとても寂しそうに見える。
「ごめん…本当に、ごめん」
何度謝っても取り返しのつかない事をしてしまった。
「謝らないで」
なのに、彼女は怒らなかった。
「私と謙信様はまた会えるよ。今はちょっと……離れてるだけで」
「強いね、結は」
俺はずっとこの子に恋をしていたんだ。
高校の時、俺と彼女は弓道部だった。
いつも俺は二位で結は一位。悔しくて弓道なんて辞めてやろうと思った時
「諦めなければ必ず出来るよ。あ、でも私も叶多には負けたくないから頑張るけど……!」
そう言ってくれた優しくも強い彼女に、その時恋をした。
初恋だった。
「悔しい……勝ちたかった…………」
一度だけ俺に負けた時も。
たったの一度なのに、悔しくて人知れず泣いていた彼女に、ずっと恋をしていた。
彼女の幸せが上杉謙信と再会する事ならば、俺もそれが叶う事を願おう。
「一度は結を傷つけたけど……結には本当に幸せになってほしいんだ」
「分かってる。私の為にやったんでしょ…?私ね、私…!謙信様が好きなの。……大好きなんだ」
顔を赤くしてそんな事を言われたら勝てない。
だから、俺の初恋はこれで終わりだ。
彼女の瞳から一粒の雫が零れる。
俺の頬にも涙が伝った。
「好きだったよ。結」
さようなら、俺の初恋。