第14章 ✼黒種草✼
どこからか花の匂いがする気がするけど、謙信様は花のにおいなどしないと言った。
それでも、何かに導かれるように謙信様の馬で初めて踏む土地を歩く。
「……花の匂いがするな」
ふと、謙信様がそう言った。
そして進んだ先にあったのは、花畑。
「夢で、見た……」
忘れていたはずの夢で見た景色は、今まさに見ている光景と同じだった。
ここで遊んでいたはずの男の子たちの姿は流石に見当たらず、ここにいるのは私たちだけ。
そういえば、その子たちはどんな顔をしていたっけ?思い出せない。
「こんな場所があったのだな」
「はい……綺麗ですね」
また一つ、おぼろげな夢の記憶が掘り起こされる。
「この花、多分ヒナギクっていうんです」
「よく知っているな」
「夢で……さっき見た夢で誰かが教えてくれました」
赤は無意識
白は無邪気
青は幸福
黄色はありのまま
紫は元気
桃色は希望
「美しい意味ばかり持っている花だな」
「はい」
雛菊全体の花言葉は
────平和
まるで、私たちが思い描いている未来みたい。
「謙信様……雛菊城、なんてどうですか?お城の名前」
「この花の事か?」
「はい。雛菊全体の花言葉は平和です。雛菊は花が長く持つことから延命菊とも呼ばれているらしいですよ。守るべき命を守って、平和を作る。素敵だと思いませんか?」
なんて、私もさっき夢の中で意味を教えてもらったんだけど。
「……いい響きだな。それにしよう」
「本当ですか?」
「ああ。帰ったら皆にも伝えよう。この美しい花畑を焼け野原にしないと誓って」
つい最近までここに人は住み着いていなかったはずだ。
それなのに、こんなに綺麗な花畑が咲いている。
それは、どうしてか分からない。
ここに来るのは初めてなのに、何故あの夢を見たのかもわからない。
でもきっと、顔も思い出せないあの二人が、私たちをここへ導いてくれたような気がした。