第3章 ✼翁草✼
デザイナーとして再び現代での生活を始めた私は、多忙な日々を過ごしていた。
謙信様に会いたくてたまらないのは事実だけど、毎日が充実している。
ここに戻って来て半年が経った。
「今日は早めに仕事も終わったし外食にしようかな」
誰か誘おうかとLINEを開く。
戦国時代では勿論使っていなかったLINEも、戻って来てしまえば使うのが当たり前になっていた。
「ごめん、結!仕事が終わらなくて……また今度誘って!」
画面に表示されたのは先程ご飯に誘った友達からの返信。
今日は一人で行こうか……そんな事を考えながらも、とりあえずは日課となっている春日山神社へと向かった。
平日の夕方、参拝客はそこまで多くない。
「こんばんは、結さん」
「宮司さん。今日もお疲れ様です」
毎日来ているからか、宮司さんとも仲良くなってしまった。
「あっちに男の子がいるんだけど随分長い事お祈りをしていたんだよ。君と同じでね」
宮司さんに言われて目を向けると、そこに立っていた男性もゆっくりとこちらを振り向いた。
「叶多…………」
いつかは会う気がしていた人。
私に怒る資格なんてないし、どんな顔をすればいいのか分からなかった。
それはあちらも同じ。
「ごめんね、何て言ったらいいか分からないや。……久しぶり。結」
「うん……」
ぎこちない雰囲気で二人で石段を歩く。
先に沈黙を破ったのは叶多だった。
「俺は本能寺跡にタイムスリップしたんだ。その……ごめん、結」
夕焼けに染まった叶多の顔は今にも泣きだしそうだった。
「あっちに帰りたい?」
「うん……ごめんね。やっぱり帰りたいよ」