第3章 ✼翁草✼
§ 結Side §
「今日もダメか……」
すっかり暗くなった空へ目を向ける。
風の音すら無い静かな夜。
私がタイムスリップした先は春日山城跡の中にある春日山神社……謙信公を祭神に祀った神社だった。
現代に帰ってきた私を待っていたのはタイムスリップする前と何も変わらないい日々。
戻ってきたのは私が戦国時代にタイムスリップした日。だから私が居なくなった事実も無い。
一つだけ変わったのは家…かな?
タイムスリップが起こるとしたら春日山城跡な気がして、私は仕事を辞めて越後があった新潟へ引っ越した。
そこでデザイナーをしながらこうして毎日神社に来ているけれど、ワームホールが出る予兆は無い。
——結
初めて名前を呼んでくれた時の事も覚えてる
あの瞬間、自分の名前が特別なもののように思えた。
——お前をどこかに逃がすつもりはない、永遠に
歪んだ愛だって言われても、謙信様から貰う一つ一つの言葉が嬉しかった。
「もうすぐ一か月か…」
こんなにも長い一か月は生まれて初めてだ。
毎日毎日謙信様の声を、顔を思い浮かべて長い一日が過ぎる。
「明日はきっと会えますよね、謙信様」
今貴方は何をしているのだろう…。
忙しい方だからまだお仕事をしているかな
信玄様とお酒でも飲んでいるかな
戦はほどほどにして欲しいな
佐助くんは追い回されていないかな?
私の事は…少しでも思い出してくれてたら良いな。
本当は一つ一つの想像の中に私の姿があればいいのに、と思いながら一人家への帰路に着いた。