第2章 ✼藤✼
目の前に見える小さな丘目掛けて走るが、目の前が雨のせいで見えない。
「結!!」
近くにいるのではないか、と声を上げると、少しして小さな声が聞こえた。
「…さま……謙信様…ここです!」
(……っ…結!)
答えて欲しくなかった。
今も安土城で腑抜けた笑顔を見せていればどれほど良かったか。
だが結は俺の声に答えた。
そこに、いるのだな。結。
どこだ
どこにいる
声のした方へ、馬を向けると、少しして人影が見えてきた。
一つじゃない。二つ。
「謙信様…っ……いや、離して!叶多!」
予想は確信へと変わった。
叶多という男は結を未来に連れ戻そうとしている、と。
「結!!」
ぼやけた影へと腕を伸ばした時、閃光が辺りを包み込んだ。
いや、結と男に降り注いだのだ。
「やめろ、結!行くな!」
叫んだ声は届かなかった。
ただ最後に光の中で見えたのは
恐怖に歪みながらも俺に手を伸ばす結と
結を抱きしめる黒髪の男の顔。
(俺の結に触るな……!)
その男は自ら選んだ事をしているのに絶望に歪んだ顔だった。
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美しいものは儚いと、俺が一番わかっていた筈だ。
だから離さないようにいつまでも傍に置いておこうと…そして守ろうと決めた。
神は何も思ったのだろう?
俺に人を愛する資格は無いと?
だからこうして奪っていくのだろうか。
結、また守れなかったよ。
お前は今、泣いているのだろうな。分かっているのにその涙を拭ってやる事が出来ない。
せめて……お前の心の中にいる俺が、その涙を止めてやれたら。
そう思うがそれも無理だろう。
お前は俺を思い出して泣くのだから。
だがな、結。
ここで俺は修羅にはならん。同じ過ちは繰り返さない。
ここでお前の手を掴めなかった事を俺は一生後悔するだろう。
だが後悔は後でいい。今はお前の涙を一刻も早く止めてやりたい。
直ぐに迎えに行くから…少しだけ待っていてくれ。
愛しい結。