第2章 ✼藤✼
§ 謙信Side §
「謙信様、ワームホールの観測に行ってくるので少しだけ城を留守にします」
佐助のこの一言が引っかかった。
結は明日だと言っていたのに、佐助は今日だと言った。
「何を言っている、佐助。結はわーむほーるとやらが出るのは明日だと言っていたぞ」
佐助に尋ねると、佐助はいつもの無表情でキッパリと言い放った。
「いえ、今日です。俺が調べましたから間違いありません。結さんには直接伝えていないので聞き間違えたかも知れません」
「直接伝えていない?」
「叶多さんの話は聞いていますか?」
「あぁ、聞いている」
「結さんは俺からではなくて叶多さんからワームホールの観測日を聞いているはずです」
佐助から直接伝えられていない…考えたくはないが嫌な方向ばかりに妄想が広がる。
「それが出る場所は伝えてあるのか?」
「叶多さんには伝えてあります」
「今から行くのであろう。俺も連れて行け」
取り急ぎ信玄と幸村に城を空けることを伝え、全速力で馬を走らせる。
だがどれだけ早く走ったところで目的地は安土。すぐ着くわけでもない。
(何も無ければそれでいい。だからどうか今も笑っていろ、結)
得体の知れない不安を胸にどれくらい馬を走らせただろうか。
時はもう夕刻……と、その時。
…………ポツリ
一粒の雫が手網を握る手へと落ちた。
……ポツリ、ポツリ、ザァァァァァ……
直ぐにそれは豪雨へと変わった。
だんだんと強くなる雨脚はまるであの日のようだ。
強くなる雨のように俺の不安と恐怖と、負の感情もどんどん大きくなる。
「佐助、まだか……!」
「もう着きます!あの丘です!」