第2章 ✼藤✼
「嘘…明日だって…」
ワームホールが出るのは明日だって、言ってたのに。
これは何?って聞かなくても分かる。今からここにワームホールが出る。
(私も…連れていかれる……!)
その場から離れようとするけど、叶多が私の腕を掴んで離さない。
「お願い!叶多離して!」
その声も…届かない。
雨に濡れた髪で顔は見えない。頬を伝う雫が涙なのか雨なのかも分からない。
「嫌……」
私の頬からも涙が零れた時、何処からともなく声がした。
「……っ…結…っ!」
こんな嵐の中でも分かる大好きな人の声。
「謙信様…謙信様!!ここです!」
必死に声を張り上げると、それまで何の反応も見せなかった叶多が声のした方を振り向いた。
声はやがて形を成して、人影となって私の前に現れる。
馬に跨りながら、全速力でこちらに駆けてくる一人の男の姿。
「結!!!」
あと、数メートル
「謙信様!」
あと少し。あと少しで謙信様にこの手が届くのに。
二人の手が触れ合う事は無かった。
叶多が私の体を引き寄せて抱き締めた瞬間、轟音と共に訪れた雷。
視界が歪み、思わず目を瞑る。
私を抱き締めていた叶多の感覚が無くなって、目を開けると、そこはタイムスリップした所とは違う場所……神社のような場所だった。
「謙信…様…っ……」
伸ばした手は雨しか掴むことは無く、流した涙は雨へと消えた。
「く…っ…ああああああっ…!!!」
流れる涙を拭ってくれる優しい手も
何かある度に心配そうに見つめてくる瞳も
そこには何もなかった。