第2章 ✼藤✼
「そんな事だろうかと思ったよ」
私からすれば一世一代の告白だったのに信玄様は全然驚かなかった。
「謙信に話したくないのはこの話か?」
「はい…謙信様を信じていないわけではありません。ただ私が話したくないだけです」
「確かに今の謙信なら聞いたところでお前を閉じ込めたり相手に何かする訳でもないだろうな」
そう、だから私が話したくないだけ。
みんなそう思う筈だ。今の彼氏に元彼の話を好き好んでする人がいるだろうか?それはきっとまだ気持ちがある場合だけだろう。
それに私は知ってる。例え昔の人だとしてもとてつもない不安に駆られる事を。伊勢姫の事を知った私がそうだったから。
謙信様は一度大切な人を喪う恐怖を知ってしまっているから私以上に不安になってしまう。不安にはさせたくない。
でも隠し事はしたくない。
だから叶多が帰ってから言う事にしたのだ。
「そうか。だが一人で悩むのは止めなさい。謙信に言えないのなら俺に言うといい」
「ありがとうございます」
話す前よりも軽くなった心で信玄様を見つめて思う。
(私はやっぱりここが好き。帰りたくない)
明日叶多と話して明後日になればワームホールが出る。
全てが終わってから謙信様にも話をしないとってそればっかり考えていたけど、叶多にもちゃんとここに残りたい理由を話さなきゃいけない。
「ありがとうございます、信玄様。気持ちが軽くなった気がします」
「どういたしまして。美女の泣き顔は見たくないからね」
信玄様の笑みは、まるで妹を心配する兄のようだった。