第2章 ✼藤✼
「さあ結。何を悩んでいるんだ?」
「え?」
自室に私を招き入れた信玄様は開口一番に私にそう問いかけた。
「昨日暗い顔をしていたし今も目が腫れている。何かあったんだろ?」
(流石だな…信玄様…)
いつも笑顔で私に口説き文句を言って来る信玄様だけど私のことをよく見てくれている。
春日山城での秀吉さんみたいな存在。
多分何もないと嘘をついても信玄様には全てお見通しだ。
「誰にも話さないと約束してくれますか?特に…謙信様には…」
誰にも言いたくないけど一人で抱え込むのも辛い。誰かに話してしまいたい。
信玄様になら話しても良いんじゃないかな。
「分かった。約束しよう」
信玄様は真剣な顔をして私の話を聞いてくれた。
叶多がタイムスリップで戦国時代に来ている事、ここまでは謙信様にも話した内容。
「それで、私が現代に帰らない事を伝えたら怒っちゃったんです。お前のいるべきところはここじゃないって…」
「まあそいつも悪気があって言ったんじゃないんだろうしな」
「はい。叶多の言いたい事も分かってるし帰らなければ現代での生活を捨てる事になるのも分かってて…それで…不安になってしまって…」
前を向いていた顔はどんどん下を向き、信玄様を見つめていた目は畳を見ていた。
そんな私の頭を撫でながら、信玄様は優しい声で言う。
「でもそいうも結の事を相当大切に思ってるみたいだしな。気持ちは分かる。でも本当にただの知り合いなのか?」
「鋭い、ですね。やっぱり信玄様には敵いません」
「美人の事ならなんだって分かる」
顔を上げると優しく微笑む信玄様。
そこ顔にどことなく安心する。
信玄様の言う通り、ここまで私がこの時代に残ることを反対する人物なんていないだろう。
理由も何となく分かっている。分かってるからこそ謙信様にだけは言いたくなかった。
だって……
「叶多とは昔、恋仲だったんです」
この事実を知られたくないから。