第2章 ✼藤✼
§ 結Side §
「ん…っ…」
閉じた瞼の向こう側から日差しを感じて目を開ける。この様子ではもう朝になってしまったんだろう。
褥の中で身じろぎをすると、大きな手が私の頬に添えられた。
「起きたか、結」
「はい…おはようございます。謙信様」
「おはよう、結」
まだふわふわする頭で昨日の記憶を探る。
(昨日は…沢山謙信様に迷惑かけちゃったな)
今ここで謝ったところで、叶多の事を離せるのは明後日、叶多が帰った後だ。今は出来るだけ話したくない。
「お前も着替えろ。そのままでは風邪を引いてしまう」
「はい」
まだ気だるさが残る体を起こして褥を抜け出すと、自分が夜着に着替えさせられていることに気付く。
謙信様が着せてくれたんだろう。
「俺は軍議があるからいい子で待っていろ」
朝早くから軍議なんて謙信様は本当に多忙な方だ。
謙信様が出て行った部屋も寂しく、一人縁側で一息ついていると、たまたま通りかかった信玄様に声を掛けられた。
「おはよう、結。謙信は軍議か?」
「はい。夕刻には帰らなければならないので、それまでにはもう一度お会い出来ると仰っていました」
謙信様が居ないと聞いた信玄様はニヤリと口の右端を上げて私に微笑みかける。
「ならそれまで俺と話をしないか?ちょうど聞きたいことがあったんだ。謙信がいないなら丁度いい」
特に予定も無かった私はその誘いを承諾して信玄様の部屋へと向かった。