第2章 ✼藤✼
ワームホールが出現する三日前……
§ 謙信Side §
「謙信、天女が来ているぞ。お前の部屋に通してある」
軍議終わりの俺にそう話しかけたのは信玄だった。
急な軍議が入ってしまい、今日は城門まで結を迎えに行けなかった。
「俺が話しかけた時に浮かない顔をしてたからな。早く行ってやるといい」
(浮かない顔…?)
まさか迎えに行けなかった事で怒っているのか
いや、結に限ってそんな事は無いだろう。
自分が何かしたかと心当たりを探しながら縁側を歩く。
「結、開けるぞ」
返事も無く、心配になった俺が襖を開けるととたんに視界がぐらりと揺らぐ。
「…っ…結?」
俺の体にしがみ付く結を見て、抱きつかれたんだと気付いた。
「どうした?」
小さな体は小刻みに震えながら、俺の存在を確かめるようにきつく抱き締める。
確実に何かあったであろうその態度に不安だけが募っていった。
左手で結の腰を抱き寄せ、右手で頭を優しく撫でてあげると、結が俺を抱き締める力が強くなる。
「ごめんなさい……少しだけ、このままで居させてください」
「ああ」
結の望み通り暫くそのままの体勢でいると、結は顔を埋めたまま、消え入りそうな声で俺に言った。
————私を抱いてください、謙信様っ……