第2章 ✼藤✼
「え…?」
なんで?
酷く震えたその声が、決して冗談ではないことを物語っている。
「どうして帰らないの?」
聞きたい事とか言いたい事とか沢山あるはずなのにそれしか聞けない。
だって当たり前のように帰ると思ってたから。
佐助も三人で…この二人だって俺より少し前に戦国時代に迷い込んだだけだって、そう思ってた。
「ちゃんと伝えてなくて、ごめん。その…ここで大切な人が出来たの」
「そんなに大事なの?」
今まで生きてきた世界を捨ててでもこんな危険な所にとどまっておきたいくらい大事な人?
友達は?目指してたデザイナーは?
俺の問いかけに無言で頷く結を見て、何か黒いものが込み上げる。
そして、気付けば結に向かって声を荒げていた。
「何言ってんだよ……結が居るべき所は此処じゃないんだよ!」
こんなに声を荒げて人を怒鳴ったのはいつぶりか。
怒る事すら滅多にない俺が、今だけはこの気持ちを抑えられなかった。
それは沢山の人を捨てる怒りか?
甘い考えだという怒りか?
否、それはただの俺の我儘だった。
結に今まで通り平和な中で暮らしてほしい。
ただそれだけ。
「ふざけてない。ちゃんと考えたよ…それで帰らないって決めたの」
ようやく顔を上げた結の頬には一筋の涙が伝っていていた。
「帰ろう、俺と。その方が幸せになれる」
今は此処で幸せを感じていてもきっといつか苦痛になる時がくる。
戦だらけで、いつも誰かの死と向き合わないといけない世界は結には耐えられない。