第2章 ✼藤✼
数週間後……
§ 叶多Side §
「結、居る?」
「うん、どうぞ入って」
結の声に促されて襖を開けると、結は布と針を手に何かを縫っていた。
「それ、仕事?」
「うん。城下の人から頼まれたから作ってるの」
安土城で結は針子という仕事をしていると聞いた。
綺麗な色の布を手に裁縫をする結は何だかとても楽しそうだ。
(何かいつもと雰囲気が違う?)
ふと感じた違和感に、結を見つめると結の頭に花の髪飾りが付いている事に気付く。
「それ、可愛いね」
髪飾りを指さすと、結は「でしょ?」と言って嬉しそうに笑う。
多分俺が見た中で一番嬉しそうに笑った。
「何かあった?」
手を止めて俺を見る結に、本来の要件を思い出す。
「あ、うん。昨日佐助から次にワームホールが現れる日を聞いたんだ」
佐助は安土城では無く春日山城という所に住んでいるらしく頻繁に会う事は無かったが、現代人同士話しているうちに仲良くなり、今では呼び捨てで呼ぶくらいの仲になった。
「やっと帰れるね、結」
此処での生活が苦しかったわけではないし、むしろ新しいことが沢山知れて嬉しかった。
だけど自分には帰るところがある。家族が居て友達がいて、帰れるのに帰れないという選択肢は無かった。
(ちょっと…寂しいけど)
結を見ると、先程までの表情が嘘のようにどんどん顔が曇っていく。
きっと結も俺と同じで寂しいんだろう…そう思っていた。
そういえば結がいつからこの時代に居るのか、何故安土城で暮らしているのかは聞いたことが無い。
だけど結は疑うまでもなく現代の人間だ。
一緒に帰るものだと勝手に思い込んでいた。
……この言葉を聞くまでは。
「叶多、あのね……私現代にはかえ、らない、の…」