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月下香の蛇

第1章 始まりと夜


本丸の皆が起きだす前に、と陸奥守は自分の部屋へ戻っていった。
一人になった私は、また本を開く。

文字を追いかけていると軽い足音がこちらへ向かってくる事に気付いた。
「あるじさま、おはようございます!」
今剣の元気の良い朝の挨拶。
「おはよう」
「あさげができましたよ。
ひろまへいきましょう!」
早く早くと私を急かす今剣は私が初めて鍛刀した刀剣男士。
陸奥守の次に付き合いの長い子。

本を片づけて廊下へ出れば
今剣は私の手を取って歩き出す。
短刀の中でも特に彼は私に懐いている。
それは付き合いの長さからなのか、
彼の性格からなのか、
特に追及して考えた事は無いけれど。

広間に着くと既に他の者たちは揃っていて
口々に私に挨拶をする。
決まった場所に私が座れば食事の開始の合図。
各々手を合わせて食事をし始めるのだった。

歌仙や燭台切、堀川などが厨組。
彼らを中心に、日によって手伝う者が変わるらしい。
彼らが居るから私は料理をしなくなった。
食べたい物があれば、離れの厨を使う事もあるけれど、
本丸の皆に振る舞うような事はしていない。
刀剣男士の中には
私が料理をするなど考えられない、
と勝手に思っている者も居るようだが
確かに、料理を含めた家事全般苦手だと思われる事は多い。
私の容姿と言動がそう思わせる様だった。
世間知らずのお嬢ちゃん。
そう思う者が居るのも事実だ。
誰かの為に尽くす事は嫌い。
全て自分の為におこなってこそ。
そんな私の態度からも、
私が家事をするなど想像できないのだろう。
なんと思われていようが、構わないけれど。

考え事をしているうちに茶碗は空になり、箸を置く。
「今日は演練に参加するから」
私の一言に、男士たちが一斉にこちらを見る。
「編成は、」


今日もまた一日が始まるのだ。
長くて、短い、一日が。
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