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月下香の蛇

第1章 始まりと夜


着物を乱して抱き合う二人など
傍から見れば滑稽でしかないのだろう。
それでも、
私の胸に顔をうずめて甘えている陸奥守を前に
辛辣な言葉を投げかける気にはならない。

「このままだと、体を痛めるわ」
「布団へ入ろう。
が風邪をひかれたち、困る」
疲れているのか、いないのか
分からないけれども陸奥守は布団を敷いてくれて
その中へ。
当たり前の様に二人で布団に包まるのだった。

「明日は、早起きしなきゃ」
「うん?」
「シャワー浴びないと、」
私が言えば、納得したらしく
陸奥守はふっと笑って、力を込めて私を抱きしめた。


夜は短い。そういう季節だから。
朝なんて、瞬く間にやって来る。

外の光に目を開ければ、ぼんやりと空は明るくて
陸奥守は変わらず私を抱きしめたまま眠っていた。
目の前には彼の胸板。
抜け出してシャワーを浴びたいのに
身動きが取れない程に抱きしめる腕が強い。
「ねえ、陸奥守」
腕さえも自由にならないから声をかければ
「なん…?」
寝ぼけた返事。
「苦しい」
一言告げれば
「すまん…!」
急激に目が覚めたのか、わたわたと回していた腕を解いた。
「シャワー浴びるけど、貴方は?」
目をパチパチとさせて私を見る陸奥守。
「浴びるの?浴びないの?」
私の部屋がある離れには審神者用の厨や風呂場もある。
当然、本丸にある物よりも小さいけれど
私一人で使うには問題の無い大きさ。

陸奥守の返事を待たずに、風呂場へと向かえば
彼が起き上がる気配がした。

広くはない風呂場は、大人二人が入れば狭いもので、
湯船に湯を溜める気にならなかったから
二人シャワーを浴びる。
だから余計に狭い。
それでも陸奥守は何だか嬉しそうな顔。

ご丁寧に私の体の隅々を洗ってくれた彼は
自分の身を清め終わる頃にはいつもの顔に戻っていた。
いつもの、
本丸の皆が知る陸奥守吉行の顔に。

「陸奥守、」
「?」
少し背伸びして、彼の唇に触れる。
私の霊力とやらを口移しするように。
「貴方は貴方よ。
私の初期刀は貴方しか居ないの。
分かってるでしょう?」
長くはない口づけ。
離れた唇でそう紡げば
陸奥守の中の何かが吹っ切れたようだった。
どうせ、不安だったのだろう。
人数の増え始めた本丸で。
自分の足元が危うく感じたのかもしれない。

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